コラム16

被災地をたずねて【第3回】

2011.06.06

所感

弁護士会の活動は、岩手弁護士会も他会からの応援で主だった避難所で法律相談会を開いているが、相談者はほとんどいない状況。もちろん、津波に洗われた土地の問題(境界、借地権等)、火災保険や損害保険の問題、相続の問題、罹災証明等における世帯認定に関する問題、等々、被災者が多くの法律問題を抱えていることも事実だが、これらの問題について被災者同士で情報交換がなされたり、避難所には多くの掲示がなされており、地元の被災者が多く加入している農協や漁協の共済保険については説明会が開かれている。また、それ以外の生命・火災保険などについても、多くのパンフレットが配布され、無料の電話で問い合わせができる等、一応の情報収入が可能。日中は破壊された自宅の後片付けや、仮設以外の移転先探しに出かける被災者が多く、避難所に残っている人は高齢者中心で、突然訪れた相談担当者に積極的に法律相談しようとする被災者が少ないのは無理からぬことだ。

しかし、避難所に滞在して何気なく世間話の輪に入っていくようにすれば、「私の息子はまだ行方不明なんだ…今さら家を建て替えられねえ」、「津波で家がなくなって、これから地主とどう話せばいいのか」、「亭主が昨年亡くなってから地震保険の名義を変えていないがどうすればよいのか」、「よそでは息子夫婦と同居して、それぞれ罹災証明をくれたらしいが、どうなのか」、「震災後サラ金へ返済できていないが、どうかなるんじゃないか」等々、いろいろな質問が飛んでくる。結局は、今のところ、避難所や地元で相談の出店を開いても、どうぞいらっしゃい方式では難しく、被災者が現実に法律相談など出向くようになるのは夏頃になるのではないだろうか。

避難所などで感じたことだが、釜石では意外と借地があり、今後、国や県の土地政策如何によって補償や換地等の問題が多発することが考えられます。また、漁業権の承継や土地収用の問題も発生しそうで、大震災を生き残った高齢者や障がいのある人がそれら問題の当事者として登場することが予想されます。そのような時、これまでのように長男や配偶者が本人名義で契約することができず、かなりの混乱が起こる可能性が高いのではないかと思われる。

驚くことに、漁協や行政までもが、一部親族が認知症高齢者や知的障がい者本人に成り代わって書類を作成することを容認(担当者が自分の見えないところで作成してほしい等と言っているよう)して、後見制度利用につながっていないという実態がある。

釜石市における障がい者問題については、残念ながら時間の関係で調査することはできなかった。ただ、いえることは市役所における障がい者対応部署は障害福祉課だが、そこには1人の保健師が釜石市全ての地区を受け持っているということ、そのため地域包括支援センターの職員が障がい者問題にも係わり、時としてサブセンターの保健師が訪問調査等も行っているということで、小規模都市に共通することかもしれない。

テレビ報道等でご承知のことと思うが、高田市や大槌町はほぼ市内が壊滅状態で、特に高田市の惨状はとても映像では伝えきれない。このように市内が壊滅してしまった地域の住民は間違いなく長期間にわたり故郷には戻れないし、そもそも戻ることができないかもしれない。地域の崩壊をどのように食い止めるのか、全町移転が可能として認知症高齢者や障がいのある人たちの権利擁護のために、三宅島の全島避難や福岡西方沖地震の際に被災した島民の福岡市内への一時移転、もちろん阪神淡路の教訓を含めて現場を担当した福祉関係者から聞き取りを行い、福祉専門職とも連携し、過去と同じ過ちを繰り返さないよう情報発信しなければならない(これまでもなされていたと思うが)と思う。