コラム22
遺言について考える【第2回】
2014.03.03
それでは、前述した例で、遺言者が亡くなる前、妻子に遺留分に相当する金額以上のものを贈与していたとするとどうなるでしょう。
例えば、妻には別居当時に500万円相当の中古のマンションを、子ども達にはそれぞれ250万円の現金を与えていたとします。
もし、死亡当時までマンションや子ども2人に与えた500万円が存在していれば、遺産の総額は2000万円となり、その内の1000万円を愛人に遺したとしても妻子の遺留分を侵害したということにはなりませんね。
このように既に贈与していた財産を、計算上、遺産の総額に加えることを「持ち戻し」と言いますが、遺留分の計算にもこの持ち戻しが認められていますので、この持ち戻しを利用することで全財産を愛人に遺すことができるのです。
しかし、この持ち戻しの対象となる贈与などを愛人が知っていなければ、妻子の遺留分の主張に対抗することはできません。
そこで、遺言書に「愛人に全ての財産をあげる(遺贈する)」という文言の前でも後ろでもかまわないので、「妻には平成○年○月頃、○○にあるマンションを贈与し、子どもたちには平成○年○月頃、それぞれ250万円贈与した」こと、そのため、「妻子には何も遺さない」ことを明記しておき、その証拠となるもの(例えば金融機関の振込依頼書等)を残しておけば、今ある全ての財産を愛人にあげることができることになるのです。
さて、こうして遺留分の制度をパスしたとしても、まだ難関があるのです。
その難関とは、遺産を愛人名義に変更することです。「それはどういうこと?」と不思議に思われるかもしれませんが、遺産の名義変更を行うためには、相続人である妻や子ども達の協力が必要なのです。
これは、法律上、遺産を愛人名義に変更する義務を相続人である妻らが引き継いでいるということになるためです。
つまり、愛人は、妻や子ども達に預金や不動産の名義変更に協力してくれるよう頼まなければはらないわけですが、頼んだところで必ずしも協力してくれるわけではありません。
もちろん、いきなり裁判に訴えて、配偶者らに対し遺産を愛人名義に変更することを求めることもできますが、それにはお金と時間が必要となりますし、何より精神的負担が大きいことは容易に想像がつきます。これでは、亡くなった後も遺族や愛人に嫌な思いをさせることになってしまいますよね。
しかし、この不都合を避けることは可能なのです。
その方法とは、遺言書の文中に遺言執行者を定めておくことです。
遺言執行者は、相続財産の管理、その他遺言の実行に必要な一切の行為を行う権限を持つので、相続人といえども遺言執行者の職務を妨害することはできないことになっています。
つまり、遺言執行者が選任されていれば、相続人は相続財産の処分などができなくなるうえ、遺言執行者が遺産を愛人名義に変更する手続き等を行ってくれることになるのです。
遺産を愛人に遺したいと考えているあなた!死してまで争いごとを作らないように必ず遺言執行者を指定しておきましょう。