コラム23

遺言について考える【第3回】

2014.04.01

次に、愛人には、遺産をあげない代わりに、生きている間ずっと、本人名義のこの自宅に住み続けることができるようにするにはどのようにしたらよいかということを考えてみましょう。
これには、遺言を利用する方法と信託を利用する方法の二通りがあります。

遺言を利用する方法とは、遺言書の中に「自宅不動産を特定の相続人に相続させる代わりに、愛人が生きている間、愛人を自宅に住み続けさせる義務を負わせる」ことを明記することです。負担付遺贈と呼ばれる方法です。
ただし、自宅不動産を相続した相続人が、愛人を排除しようとすることを防ぐためには、そのような遺言書の存在を愛人が知っていること(遺言書の写しを持っていること等)が必要です。
このような時も、本人の意思を実現するために遺言執行者を定めておくことが望ましいでしょう。

信託を利用する方法とは、遺言書によって一旦本人が信頼している人(受託者と呼びます。)に自宅不動産を託し(遺言信託といいます。)、愛人が生きている間は自宅を愛人に利用させることを定めておくことです。
そして、愛人が亡くなったり、施設入所などで在宅生活ができなくなった場合には、信託を終了させたり(終了した後は、自宅は相続人のものとなります。)、相続人の中から自宅不動産を承継するにふさわしい人を選ぶ権限を受託者に与えておき、その選ばれた人が自宅を引き継ぐようにしたりするよう決めておけばよいのです。
ちょっと難しいですね。かいつまんで言うと、本人が亡くなった場合、一旦、自宅不動産を信頼の置ける受託者の名義に変え、その受託者が、愛人の生きている間は自宅を愛人に使用させ、愛人が使用する必要がなくなった時に、本来の相続人へ自宅不動産の所有権を引き継ぐということです。
この方法では自宅不動産の名義が受託者に移るため、負担付遺贈の時のような不都合は起きません。

このように説明すると、信託を利用することの方がよさそうですが、信託の場合、本人が亡くなると、愛人が自宅不動産を取得したものとして贈与税が課せられるため、それに耐えられるよう一定の現金や預金を併せて遺しておく必要もあります。

こんなまわりくどいことより、「自宅不動産を愛人に遺贈し、愛人が死亡したときは本来の相続人の誰かに相続させるという趣旨の遺言(跡継遺贈と呼ばれています。)ができないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
信託であれば、受託者に対し、「愛人が生きている間は愛人に、愛人が死んだら相続人のAに、Aが死んだら相続人のBに自宅不動産を使用させる」という義務を課すことが可能です(これを跡継遺贈型受益者連続信託といいます。)。
しかし、相続や遺贈で負担なしに受け取った不動産は相続人や受遺者(遺贈を受ける者として、遺言によって指定された人)が自由に処分できるはずですし、登記簿には愛人→A→Bとなるような順序づけをすることができません。
つまり、相続人などから新たに不動産等を購入した人には、跡継遺贈の対象となっている不動産であることを知る由もないので、思わぬ損害を被ることになりかねないということです。
裁判所も現在のところ、いわゆる跡継遺贈は認めていませんので信託を利用する方法がお勧めです。

【3回シリーズ(最終回)】