法人後見事業活動事例(7)

事例(7)ターミナルケアの意向について

私が担当として関わったBさんは、70歳代(当時)の男性で保佐類型。パーキンソン病の持病はお持ちでしたが、比較的に認知能力は高く、普通に会話のできる方でした。Bさんは若い頃、ギャンブルが原因で離婚しており、娘さんからも関わりを一切拒否されている状況でした。

保佐人や成年後見人であっても医療に関する同意は出来ないことから、Bさんが入所していた特別養護老人ホームでは、不測の事態に備えてご本人にターミナルケア(終末期医療)に関する意向書を記入して貰っていました。用紙の最後に【延命治療(心臓マッサージ、電気ショック、人工呼吸器装着)を希望しますか】という項目があり、Bさんは、その項目に○をつけていました。施設の方からその用紙のコピーを受け取ったその時点では、まだそれがとても重要なものという認識はありませんでした。

点滴をする男性のイメージイラスト

月日が経ち、Bさんの容体が急変しました。C病院へ救急搬送され、肺炎及び腸捻転との診断を受け手術等を行いました。この様な状態では、退院後に施設へ帰るのは無理との判断で療養型のD病院へ転院となりました。その後も、容体が急変しては救急搬送されてC病院へ入院し、再び容態が落ち着くとD病院へ転院するということを何度か繰り返したため、その都度、其々の病院の医師と面談し、本会では医療同意できないという説明を行いましたが、どちらの医師も、Bさんが以前書かれた終末期医療の意向書を見ながら、「○がついているがゆえに、最終的にどこまでの治療をするべきか非常に悩むところである。」と言われました。親族のいる方なら「もうそこまでの治療はしなくて結構です。」という一言ですぐに結論は出せるのでしょうが、Bさんの場合、親族は一切の関わりを拒否しているため、「どこまで」という判断が誰も出来ず、悩ましいケースでした。Bさんがもう少し若い方であれば、医師も判断し易かったのかもしれませんが、Bさんの年齢を考えると、果たして、その治療が本人にとって本当に良いことなのかと医師も頭を抱えていました。念のため、入所していた特別養護老人ホームの職員にBさんが意向書を書かれた時の様子を尋ねましたが、施設側としては、具体的な治療方法についての説明は特にしていなかったらしく、Bさんが終末期医療についてどこまで理解して意向書を書かれたのか分からないままでした。

なかなか結論が出ないため、D病院の医師から「もう一度ご本人に直接聞いてみましょう。」との提案があり、医師、看護師長、本会の後見担当専門員と支援員である私の4人で、入れ替わりBさんへ「延命治療をして欲しいですか」と尋ねてみました。すると、Bさんの口から「うん、するよ。」ともとれるような声が聞こえたので、医師は「やっぱり治療して欲しいということですね。」と言われ、万が一の時には、延命治療の出来るC病院へ救急搬送するよう治療方針を決められたようでした。ところが、C病院から、延命治療の意向がはっきりしないBさんの現状では対応出来ないと言われ、結局、療養型のD病院で最期の看取りをすることになりました。

Bさんは、その後、しばらく小康状態が続きましたが、病状が急変した後、延命治療する間もなく息を引き取られました。Bさんの訃報を親族の方に電報でお知らせしましたが、音沙汰なかったため、家庭裁判所と協議のうえ、本会で葬儀、納骨を行いました。

Bさんがこの終末期医療の意向書を書かれたときの心情は誰にも分りませんが、私が察するに、延命治療の方法など詳しく理解できていなかったけれど「自分が苦しいときには何とか助けて欲しい。」・・・そういう気持ちで○をつけられたのではないかと思います。もし、今後、またこのようなケースの方を担当するようなことがあれば、今度は出来ることなら自分もその場に立ち会って、その書面の内容をご本人に分かりやすく説明し、慎重に記入してもらう必要があるのではないかという事を痛感しています。

医者と担当員のイメージイラスト