地域福祉権利擁護事業活動事例(3)

事例(3)精神障害のある方の地域の受け皿として

精神科の病院に入院して、治療がなされ、症状が安定しているのに、地域での受け皿がないために、長期間の入院生活を続けている精神障害のある方は全国で7万2千人いるといわれています。こうした長期の入院は本人の社会的な経験をなくしてしまうことになり、ますます地域での生活が難しくなってくるのです。こうした精神障害のある方の地域での受け皿の一つとして、「地域福祉権利擁護事業」の利用を検討されることが増えてきました。

~初めての訪問~

Cさん(48歳・女性・統合失調症)の相談は、病院のソーシャルワーカーからでした。
精神科の病院ではじめてお会いしたCさんは、中学卒業後に統合失調症を発症し、30年もの間、入院生活を余儀なくされてきたのだそうです。
面会にきてくださる親族はいないようです。
現在の症状としては、時折、実際にはいない人の姿が見えたり、声が聞こえたりすることがあるけれども、薬さえ飲めば1時間くらいで落着くのだそうです。
担当医からは地域での生活は可能と言われており、精神障害者福祉ホームでの生活を検討しているとのことでした。Cさんは新しい生活への期待はありながらも、30年間慣れてきた入院生活と全く変わってしまうことに不安を隠せません。
迷いながらも、退院後の生活の話になると、自分だけの部屋ができること、自分で料理をつくることなど、楽しそうにプランをいろいろと語ってくれました。
本事業の説明をしたところ、「便利なサービスですねえ。福祉ホームに入ったら絶対必要です!」とはっきり言われました。
ただ、退院についての迷いがまだ強そうだったので、よく考えて退院の決心がついたら、また伺うことを約束しました。

~二度目の訪問~

1ヶ月後、病院のソーシャルワーカーから、本人が福祉ホームの体験入所を重ねたこと、料理のレパートリーも増えたことから、ようやく福祉ホームへの入所を決めたとの連絡がありました。
二度目の訪問には、病院のソーシャルワーカーに加えて、看護師長と福祉ホームの職員が同席し、今後の生活について話し合いました。

~難しい親族の関わり~

本会との地域福祉権利擁護事業の契約をする際には、契約終了時に本人にお預かりしている財産等をお渡しできない場合(ご本人死亡の場合等)引き取っていただく方を決めていただかなくてはなりません。
Cさんの母親は入院しており、引き取っていただける状況ではなかったため、ご本人の指名されるご親族に連絡をとったところ、関わりを拒まれてしまいました。
結局、本人と話し合ったうえで、これまで全く連絡をとっていなかった妹さんが、保管財産の引取りを了解してくれました。
精神障害の方に限らず、判断能力が十分でなくなって、生活の維持が難しくなってくると、ご親族との関係も難しいものがでてきます。

~福祉ホームでの生活がスタート~

退院に向けてソーシャルワーカーとの買物のことをはなすCさんはとても明るい表情でした。
「金銭管理・生活支援サービス」は月に1回と決め、慣れるまで使途別に袋分けすることにしました。
新しい生活に馴染むまではやはり波があって、新しい人間関係に落ち込んでいることもあったようです。
また、これまでなかった異性との関わりも出て楽しそうに話してくれますが、半面、出費がかさむこともありました。
こうした関わりは、本人とも話し合いながら、福祉ホームや、通っているデイケアサービスの職員とで、本人の生活が阻害されることがないようそれとなく見守りを続けていくことにしています。
一時は単身でのアパート生活も考えたようですが、関係者といっしょに時間をかけて、ご本人の求める生活が実現できるようお手伝いができればと考えています。

精神障害のある方は50人に1人の割合と言われています。
自分と関係のない特別な人ではないのです。
彼らは、自分の病気と折り合いをつけながら、懸命に日々の生活を送っています。
精神障害のある方が地域で暮らしていくには、地域のみなさんの正しい理解とあたたかい見守りが必要です。